創作 破滅の望(仮)

一次創作「破滅の望(仮称)」のまとめ。※グロ描写、多少の工口描写を含みます。

破滅の望 4話

「えっとー…Desire様は…なんて呼んで欲しい?」
外でずっとDesire様呼びでは都合が悪い時も出てくるだろう。なんて呼んだらいいのか、私からも聞いてみる事にした。
「俺?あー…伊吹とでも呼んでくれ。今の本名なんだよ、影山伊吹。呼び捨てでいーぞ!」
Desire様の新しい本名…それを…呼び捨て…タメ口で喋って…!?まるで同世代の友達のような感覚に、私は凄く驚いた。
「どーした?ほら、行くぞ。菜白ぉ?」
「んぇ?!ど…どこに…?」
彼は…伊吹は優しげな笑顔で私に手を差し伸べている。ほら、と言われてもどこかに行く約束をした記憶が無い。
「どこって…俺ん家以外にどこがあんだ?菜白は俺と一緒に生きてぇんじゃなかったのか?」
伊吹はなんと私を本当に家に連れて行ってくれると言うのだ。私は元々伊吹…もといDesire様の事が大好きだったが、伊吹にとって私は今日初めて会ったばかりの相手だ。
「えっ!?本当に…いいんですか…!?」
「良いに決まってんだろ!!こんなしょーもねぇ嘘つく理由なんて無ぇよ…」
そう言うと伊吹は私の手を大切そうに握り、繁華街の大通りへと歩き出した。

破滅の望 3話

殺人鬼の勘…か。一緒に暮らしたいなんてとんでもない事を当てておきながら、あっけらかんとしている彼をじーっと見つめてみる。乱雑に切られ裾の揃わない緑がかった銀髪、人が死ぬ…殺される瞬間を沢山見てきた 引き込まれるような緑色をした瞳。よく見ないと気付かないような女性のような喉仏、胸辺りまで下がる透き通った明るい水色の石のネックレス。
「あー、これか?これが何なのか…知りたい?」
ネックレスを眺めているのがバレて、そう聞かれた。彼の恐ろしい過去には似合わないような綺麗なネックレス、確かに不思議に思っていたので聞いてみる事にした。
「俺いろいろやらかしたからここから監視されてる……」
それを聞いて私は息を飲んだ。それが本当なら、私が彼に会った事が家族や警察に見つかってしまう。
「なーんて事は無くてあそこにあった宝石屋の閉店セールで安くなってんの見かけたから買ったんだよ。このサイズで600円だぜ!?そりゃ買うだろ!何の石か知らねーけど…。俺こういう色好きなんだよなぁ〜、ほんとはもうちょい緑っぽい方がいいけど!」
彼は少し遠くを指さしながらそう話した。閉まったシャッターに「テナント募集中」と書かれた紙が貼られている。監視されてる ってのがハッタリだと分かってほっとして、つい言ってしまった。
「Desire様!怖い嘘つかないでくださいよ!もし警察にバレたら私は家に帰されちゃう…やだ…」
「すまねぇ!俺が悪かった…よしよし…てかお前マジで家で何されてたんだ?」
彼は慌てて私をギューッと抱き締めてそう言った。控えめに言って気絶しそうだ。大好きなDesire様に抱きしめて貰えて今最高に幸せなのに、家で今まで言われてきた事がフラッシュバックして意識が朦朧とする。
「っ!?お前!!どーした!?」
「やなこと…思い出し…て…ごめんなさい…ごめんなさい…」
またこれだ。どんなに幸せでも家に帰ればまた不幸が訪れる、そんな感覚で過去の記憶が大量に蘇ってきて涙が止まらなくなる。
「もう自分責めんな…?落ち着くまで泣いていい…それまで俺は待っといてやるからさ。」
守るように私を抱きしめ、ゆっくりと背中を撫でながらそう言った。
10分近く経っただろうか。メンタルが落ち着き、また幸せを感じられるようになった。
「もう大丈夫…!ありがとうございます」
「こっちこそありがとな!逃げ出そうとしない生きた人間抱きしめたの、初めてかもなぁ…」
一瞬「生きた人間」という言葉が引っかかったが彼は殺人鬼だという事を思い出して納得した。最初は彼の猟奇的な部分から好きになったのに、あまりにも優しくしてもらって忘れていた。
「あとお前敬語じゃなくていーぞ?てか名前何だ?ずっと「お前」っつってんのもアレだしな。」
急に敬語じゃなくていいと言われてフリーズしてしまった。もしかして彼は本当に私とずっと一緒に居てくれる気なのだろうか?そんな考え過ぎな願望が脳裏を過った。あと名前…これから名前で呼んでくれるのかもしれない…!!
「私は…菜白…花畑菜白!」
「菜白ちゃんかぁ…可愛い名前じゃねーかっ!あと花畑…って…なぁ菜白?父ちゃんの名前、秋人だったりする?」
私が自分の更生係をしていた者の娘である可能性に気付いたのだろうか。花畑秋人はお父さんの名前だ。
「うん、お父さんは花畑秋人。Desire様の更生係してた。」
嫌われるかもしれないが今更隠すのも厳しいだろう、そう思って明かすことにした。
「ほーぅ…アイツの子が俺の事好きとか意外だったが…家に帰りたくないっての納得だな!アレが家に居たらって考えたらゾッとするな。よく逃げ出して来れたな…!」
彼は頼もしい笑顔でそう言った。逃げ出すも何も、最後は引き止められもしなかったが…。

破滅の望 2話

居場所がバレないようにスマホの地図は使えない。家で写した手書きの地図を頼りに歩いていると、ちょっと治安の悪い繁華街に出た。下品な程の極彩色のネオンの看板、露出度の高い片言の日本語の客引き達。どう見ても子供が1人で来る場所では無い雰囲気を放っていた。初めて現実で見る景色を目に焼き付けながら歩いていると、このタイミング繁華街には似つかわしくない薄暗い裏路地への入り口を見つけた。丁度目も耳も疲れて来ていたので、入ってみる事にした。誰も居ないと思っていたが奥へ奥へと歩みを進める内に、突き当たりに誰か居る事に気が付いた。不思議な…不気味なオーラを纏った人、性別も分からない。結構離れてはいたが、一瞬目が合ってしまった。こうなってしまったらもう引き返す事は出来ない。覚悟を決めて、その人の方へと進んだ。
「…ん?お前…1人か?こんなトコの夜に…」
少し驚いたようにその人…彼は言った。どうやら男性のようだ。
「はい…ひとり…です。あ…えと…」
私は人を探している と言おうとしたが、パッと言葉に出来なかった。次に何を言うかも何も考えていなかったせいで黙り込んでいると、彼はニヤリと笑ってこう言った。
「はははっ!こんな時は嘘でも親と一緒って言わなきゃ危ねーぞ?お前ほんとに1人みたいだし…もーちょっと周り警戒しねーと…」
…確かにそうだ。1人でいるなんて誘拐してくださいみたいなもの…なんてぼんやり考えていると、彼はおもむろにポケットから包丁を取り出した次の瞬間
「カンタンに殺されちまうぞ?!俺みてーな食人鬼にな…ッ!!」
その包丁を高く振り上げたのだ。命の危機の筈なのに、何故か全く怖くなかった。
「…は?もーちょいビビると思ったんだがなー…」
彼は包丁をポケットに仕舞い、残念そうに言った。その表情はまるで「人を残酷に殺す事に快楽を憶える者」のようだった。…もしかして
「んー?なんだ?俺の顔、なんかついてるか?それともつーほーする為に覚えようとしてんのか?」
「あの…この紙に「ディザイア」って書いて貰えますか?」
本人に「DesireCatastropheですか?」と聞くのは流石に嫌われるリスクが高そうだから辞めておいた。
「えーっ…もしや俺が何者か分かってる?」
ついギクッとしてしまった。正体を察している事は確実にバレてしまっただろう…
「じゃあこんな回りくどいことしねーで聞きゃよかったのに…まー怖がんのも分かるけどさ?」
紙に書くのは慣れないのか、ゆっくりとペンを進めながらそう聞いてきた。
「怖がってないです!…ただ…嫌われたくなくて…」
私が彼を…Desire様を怖がる?そんな事ある訳が無い。
「嫌われたくない…ふーん…別に俺恨んだ相手殺してる訳じゃねーんだけどなー…あっ、書けたぞ。」
恨まれたくない訳でも無い事を釈明しようかとも思ったが、渡されたその紙に書かれたサインに引き寄せられてしまった。ギリギリ読めるくらいの雑な字で書かれた「DesireCatastrophe」の文字。広めに開いた字間とギチギチの行間、正真正銘Desire様のサインだ。
「お前…なるほどなァ…あー…」
私が狂信者である事を察したのだろうか。全く…と言わんばかりの表情で私を見下ろしている。「ごめんなさい」と言おうとしたその時 私の口を抑え
「ッ…はははッ!謝んなくていーんだよ!ってかお前何されて来たんだよ…」
彼は私の頭に手を近づける。無意識に叩かれるんじゃないかと思ってしまい、その場で少し縮こまった。
「…!! 叩くと思ったのか!?んな事する訳ねーだろ…?」
なんと彼は私の頭を優しく撫で始めたのだ。あまりの展開に精神がついて行かず、ただ黙って撫でられる事しか出来ない。
「…かわいーなぁ…ずっとこうしてたい…でも殺すのはなんか違ぇんだよなー…何なんだろ…」
何とか状況は理解したが、ふにゃふにゃとしたやる気のない声しか出ない。
「でぃざいあさま…まっ…て…」
「どーした?なんか言いてー事でもあんのか?」
一緒に暮らしたい…それが私の本音だが、Desire様にとって私は初対面の狂人…そんな図々しい事を言うのは良くないだろう。
「遠慮すんなよー?何となく何言いてぇか、結構分かってんだぞ?…ずーっと一緒に居てぇんだな?」
完璧に図星だ。当てられた衝撃で、文字に出来ないような情けない声がでた。
「なんで…わかったん…です…か…?」
全然体に力が入らず、文章に出来てもサラッと話せない。
「なんでわかったのか?俺の…殺人鬼のカン、舐めんじゃねーぞっ!」

破滅の望 1話

「もう二度とあんなふざけた事を言うな!分かったな?」
「…分かりました…ごめんなさい。」
私は花畑菜白、なんの取り柄も無いただの中学生。勉強も運動も何もかもお姉ちゃんの方が上、だから学校で虐められても誰も助けてなんてくれないんだろう。今日も家族に沢山迷惑をかけてしまった。お父さんに叱られるのも当然だろう。お父さんはいつも「優秀な人間しか家に要らない」って言っている。私がお父さんにとって厄介者でしか無いことぐらい、簡単に想像がつく。
「Desire様…だいすき…わたしを…たすけて…?」
Desire様は大体10年くらい前に世間を騒がせた最恐の殺人鬼「Desire Catastrophe(ディザイア カタストロフィ)」様の事。殺した人を食べた疑惑もある。こんな事考えちゃいけないのもわかってるけど、もしかしたらいつか虐めっ子やお父さんを殺してくれるかもしれないって思ったら、信じる以外の選択肢は無かった。
「はぁ…アンタねぇ…また"アイツ"の事考えてたの?」
ノックもしないで姉が部屋にやって来た。
「そんなに好きなら奴と1度話してみればいい。生きて帰って来れても必ず嫌いになる。」
続けてお父さんの声が聞こえた。1度話してみればいい?それは会いに行っても良いって事なのだろうか?会えたらどんなに嬉しいか…嬉しい通り越えて死んでしまいそうだ。いや、彼に殺されるなら本望か。
「お前はあんな奴の何が好きなんだ?アイツは…隼は…ただの狂人だ。かっこよくも何ともない。」
貴方を殺してくれそうな所、なんて言ったら絶対また叱られる。今度は叱られるじゃ済まないかもしれない。それに、それらしい理由をつけた所でお父さんやお姉ちゃんなんかに彼の良さが分かる訳が無い。今まで彼と私を散々否定し続けてきたアイツらに…。過去の記憶が次々蘇ってくる。苦しい…Desireさま…たすけて…あいたい…
「お父さん…Desireさm…隼和真に、会いに行ってもいい?」
「フン、手助けもしない、金もやらん。それでも行くなら好きにしろ。お前は奴の幻想を信じてる、会ったら幻滅するだろうな。死んでも知らんぞ。」
お父さんは私が死んでも特に困らないんだろう。薄々そんな気はしていたが、引き止められなかった。でもその方が都合はいい。彼の今住んでいる大まかな場所は、お父さんの机の上にあったメモに書いてあったから知っている。家からはそんなに遠くない場所だ。彼が外に居るのは何時ぐらいだろうか。今も犯行を繰り返してると考えると22時半前後だろうか。それなら21時ぐらいに家を出れば会える可能性は他よりは高い。今の時刻は19時20分、邪魔さえ入らなければ今日もう行ける。
しばらくお父さんからの邪魔は入らない そう確信した私は、服や財布、必要な物をまとめて部屋の隅にあった埃を被ったキャリーケースに詰め込んだ。えへへ 待っててくださいね、Desire様。もうすぐ会いに行きますから…

破滅の望 設定集

舞台設定

 

「夜始山市」(やしやま市)
地名の由来は昔の大名が2つの都を移動する際、この山を越える時間辺りに夜が始まった事。
比較的新しく認定された政令指定都市。警察組織が密集した地帯がある為、そこから出所してきた者が過ごしている事も多い。脱獄犯の潜伏対策等の目的で監視の目は厳しく、若干ピキピキした雰囲気が漂っている。だが最近は駅前にショッピングモール「夜始山サンティエ」がオープンし、堅苦しいイメージは薄れてきているが、まだ市が掲げている「安らげる街」というイメージは定着していない。夜始山サンティエの開店に伴い、他の繁華街等の店が次々閉店していることもあり、便利になったとはいえマイナスイメージを持っている者も少なくない。

 

 

人物設定

 

影山 伊吹(かげやま いぶき)33歳(年齢仮設定)
快楽殺人鬼でカニバリストのやべーやつ。14回も電気椅子の刑に処されたがあまりに身体が頑丈すぎて生き延びた。その後もう一度処される事が決まっていたが「あまりに何度も死刑を執行するのは酷い」等と色々な方向からの強い反発を受けて取り消しになり、釈放されてしまった。
かつては「Desire Catastrophe(ディザイア・カタストロフィ)」を名乗り、殺害現場にサインを残していた。ちなみに中学の頃に考えたHNである。ダサい自覚はあるが指摘すると行方不明にされる。旧本名は「隼 和真(はやぶさ かずま)」。釈放後も全く反省も後悔もしておらず殺人や食人を繰り返し続けている。総被害者数は3桁を超えるらしいが、本当に殺したと分かっているのは5人。死体を隠すのがあまりにも上手いせいである。他人が怯えているのを見ると殺人欲が抑えきれなくなる。
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花畑 菜白(はなはた なしろ)13歳
連続殺人鬼崇拝者のやべーやつ。学校で酷く虐められていて誰に助けを求めても何も変わらない(むしろエスカレートする)ので周囲の人に助けを求めるのを諦めた。「もしかしたら いつか虐めっ子達を殺してくれるかもしれない」という微かな希望から「相手の善悪に関係なく、自分の欲が向いた相手を殺す」狂った殺人鬼である「Desire Catastrophe」に縋るようになってしまった。親に「勉強も運動も姉の方が上、出来損ないの子供は要らない。」と日常的に言われており家出を決意した。1人で夜中の街を行く宛てもなく歩いている時に伊吹と遭遇、「Desire Catastrophe」本人である事を暴いた。伊吹が殺人鬼である事を嫌でも思い出させられるようなおぞましい言動をすると、普通のアイドルファンの少女のように目を輝かせて尋常じゃない程発狂して喜ぶ。限界オタク(もはや狂信者レベルだが…)の鑑である。
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花畑 秋斗(はなはた しゅうと)46歳
菜白の父親で警察。優秀でない者は自分の家にいらないと思っており、菜白に暴言での虐待を繰り返している。バレないように暴力は振るわない辺り、すごくタチが悪い。捕まっていた伊吹の更生係を務めていたので、伊吹がどれだけ更生の余地が無く、そして狂っているのか知っている。菜白が伊吹の狂信者と化しているのに気付いた時、「そんなに好きなら奴と1度話してみればいい。生きて帰って来れても必ず嫌いになる。」と言っていたのだが、意気投合して恋人のようになってしまい頭を抱えている。菜白が失踪した直後、伊吹を疑い菜白の居場所を聞いた時に「あの娘か?…美味かったぞ♡」と返されてブチ切れたりしたので本当は菜白の事も大事にしている…ように見えるが「子供をちゃんと見ているいい父親」という周りからの認識が変わるのを恐れただけである。


花畑 夏海(はなはた なつみ)16歳
菜白の姉で優等生。犯罪者以外に世界に必要ない人間なんて居ないと考えており、菜白の事も大切にしている。秋斗が菜白を虐待している時は、自分が標的になりたくなくて秋斗に同調してしまう。その為、菜白が失踪した時に本気で心配していたと話しても信じて貰えなかった。己の欲の為に沢山の人の命を奪った殺人鬼である伊吹の事は必要ない人間として認識しており、菜白が伊吹に他の者には見せない程の満面の笑みで抱きついているのを見た時には気を失った。秋斗の居ない時は菜白の事を大切にしているが、それが逆に怪しまれてしまっている。昔は僕っ子だったが、秋斗にバレて辞めさせられた。