創作 破滅の望(仮)

一次創作「破滅の望(仮称)」のまとめ。※グロ描写、多少の工口描写を含みます。

破滅の望 15話

「なー菜白、そーいやお前の歯磨きセット開けてねーな。」
こう言われてから私は、洗面所に自分の歯ブラシとかが揃っているいつもの家じゃない事を実感した。旅行に来たような気分だけど、観光に行ったりするより全然落ち着くし楽しい。リビングに置いてる袋から歯磨きセットを取り出し、早足で洗面所に戻った。
「なんも言われなくてもすぐ取りに行くの偉いなぁ!菜白お前ほんとにまだ中学生なのか?」
ただ自分の物を取りに行っただけで褒められたのなんて初めてだ。伊吹は優しく私の頭を撫でてくれる。ふにゃっとしたその笑顔からは、この人がDesire様だなんて全く想像つかない。
「えへへ、ありがと。殺人鬼で怖いイメージあったけど、本当はこんなに優しいんだね。伊吹のこと色々知ってるつもりだったけど、実際会ってみたらあんなの全然分かってなかったよ。」
伊吹の事は本人の次ぐらいに知ってるぐらいに思ってたけど、喋ったり一緒に過ごしたりしてる内に、自分が知っているのなんてほんの一部だって事に気づいた。少ない情報と勝手な偏見で相手のことを決め付けるなんて、そんなのお父さんと変わりないじゃない。
「ははは!なんかカン違いしてねーか?どんだけ菜白に優しくしよーが、俺が殺人鬼な事に変わりはねーんだよ。お前はよーく知ってると思うが、俺は人殺したり食ったりして気持ち良くなるよーな狂ったカニバリストなんだよ。分かったか?」
そうだった。私には優しくしてくれていても、他の人達にしてみれば行き当たりばったりで人を襲う恐ろしい存在でしかない。
「うん…分かった。でもどれだけ狂ってても、私は伊吹のことだぁーい好きだよ!」
「はははッ!そんぐらい分かってんだからな!俺も菜白の事だーいすきだぞ!むしろ俺の方が菜白の事…いや、お前の大好きはもはや狂気だしそれは超えれねーか?菜白の事は多分世界一大事だし好きだけどこれは相手が悪かったな。」
私がどれぐらい伊吹の事が大好きか、ちゃんと伝わってるみたい。私の事を世界一大事に思ってくれてるのは伊吹…こんな幸せな事、現実だとは思えない。しかもそれを本人から言って貰えるなんて、本当に夢みたい。そんなことを考えていたら、いつの間にか伊吹は歯を磨き始めていた。私も慌てて歯磨きを進めた。歯磨きは一通り終わったが、うがいするコップが無いや。不器用で手のひらに水貯めるのも苦手だしどうしようか。
「あ、コップ無ぇのか。菜白がいいならこれ使うか?」
なんと伊吹はそう言って自分のコップを差し出してきたのだ。大好きな伊吹と…間接キスになるの、恥ずかしいけど嬉しいなぁ。昨日の夜もう間接じゃないキスされたし今更間接ぐらいって頭では分かってるけど、自分からなんてドキドキする。
「お前顔真っ赤っかだぞ?恥ずかしーんだな?!ははは!菜白かわいーなぁ。」
伊吹は楽しそうな笑顔で私を撫でてくれる。嬉しいけどとりあえず先に、口の中に歯磨き粉残ってるのどうにかしたいな。そう思って私は伊吹から少し離れて、何回か口を濯いだ。
「菜白今日服どれ着んだ?これとかぜってー似合うだろーな…」
伊吹は私のキャリーケースを物色して、私の好きな水色のスカートを出してそう言った。1番気に入っている勝負服のワンピースを着て来たが、このスカートも家に置きっぱなしにするのは嫌で持って来ていた。
「えへへっ、私そのスカート好きなんだよね!伊吹もそのスカート好き?」
「あぁ、可愛くて好きだな。まー菜白が着たら何でもかわいーんだろーけどな!」
無邪気そうな笑顔でさも当たり前のようにそう言い放つ伊吹、人喰いに目覚めたりして狂ってなかったら凄いモテたんだろうなぁ。今更そんな事考えても何にもならないのに、何となく想像してみた。
「おー、この服スカート合いそーだな。今日これ着てくれねーか?」
伊吹はそう言って、スカートと重ねて入れていた白いブラウスを持ち上げていた。元々よく着てた組み合わせだけど、伊吹に決めてもらえるなんてすっごく嬉しいな。私は直ぐにもちろん!と返事してその場で着替えようとした。
「待て待て待て!ここで着替えんのか!?…あー、もう裸見られてるしどーでもいーってのか?」
あっ…またやってしまった。家でならお父さんに見られないようにとかちゃんと考えてたのに、人にこんなに気を許すのが初めてなせいか見られないようにって気を使わなくなってしまう。伊吹にこれ以上恥ずかしい思いさせたりしないように、これから気をつけなきゃな。そう思って私は洗面所に着替えを持って行こうとした。
「…お前さえ恥ずかしくねーならここで着替えていーんだぞ?別に俺は裸見ても何も思わねーしな。」
「ほぇ!?い、いいの?」
突然ここで着替えていいって言われて、驚いて気の抜けた声が出てしまった。その声を聞いて伊吹はふにゃっと笑っている、なんだか落ち着く笑顔だ。確かに伊吹は裸なんて見たところで何ともならないけど…それでいいのかな。私がまたやっちゃったってならないように、気遣ってくれてるのかもしれない。勘も鋭いし、なんかもう毎回後悔してるのはバレてそう。改めて言われるとちょっと恥ずかしくなってしまったが、今更洗面所に行ってもなと思ってその場で着替え始めた。
「無ぇなー、何がとは言わんが。」
十中八九胸の事だろう。ワンピースとかパジャマとか来てても分かると思うが、着痩せしてる位にでも思ってたのかな。あとお風呂の時に言ってこなかったのはなんでだろう、自傷跡があまりにも衝撃的過ぎてそれどころじゃなかったとか?
「おっきい方がすき…?」
「んー、別にどっちでもいーな。どちらか選べって言われたら小さい方が好きかな、ちっちゃい子みてーでかわいーじゃねーか。」
可食部多いからおっきい方が好きかと思ったけど、違うみたい。ちょっと意外だったけど、もしかして私が気にしないように考えてくれてるのかな。1つ質問したいことが思い浮かんだけど、本人に言っていいのだろうか。うーん、凄く悩むなぁ。いいや、もう言ってしまおう。
「伊吹はその…俗に言うロリコンなの?」
ロリコンではねーな。多分菜白が大人でも中身これだったら好きんなってただろーし。」
質問より先着替えろとでも言いたげな表情で、笑いながら伊吹はそう言った。本人が言うにはロリコンでは無い…らしい。私が大人でも中身が同じなら好きになってたって、私が大人になってから伊吹に初めて出会う可能性なんてもう無いのに何故かドキドキしてしまう。サッと着替えてその場で色んな方向を向いて着た服を伊吹に見せてみた。
「うおー!やっぱ似合ってんなー!これから一緒に出かけんの、すげー楽しみだな!」
伊吹は満面の笑みでこれでもかって程私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。つい嬉しくなって、伊吹に全力で抱きついてしまった。
「おっ!?はははッ!かわいーなぁほんと。お前それ他の奴にぜってーやんなよー?」
伊吹の胸に頬擦りしながら、なんでそんな当たり前の事をわざわざ忠告してくるんだろうとか思いながら頷いていたら、伊吹は突然抱き締め返してきた。傷つけないように優しく優しく、大事そうに背中を撫でてくれる。
「えへへ〜、だぁーーい好きだよ〜っ。」
「ん〜、俺もだぁーーーい好きだからな〜。」
対抗するように愛を伝えてくれる伊吹が、たまらなく大好きだ。ふにゃーっとした可愛い笑顔でそう言ってくれて、私もう力が抜けてぐにゃぐにゃになっていた。