創作 破滅の望(仮)

一次創作「破滅の望(仮称)」のまとめ。※グロ描写、多少の工口描写を含みます。

破滅の望 16話

「そろそろ俺も着替えなきゃな。菜白がこんなかわいーんだから、それに似合う感じのやつ…」
そう言うと伊吹は寝室に向かい、棚を漁って今日着て行く服を探し始めた。私も確かにこの服はお洒落だと思うけど、自分が着てて可愛いって言われるとちょっと恥ずかしい。
「えっと…これとか?すっごい似合うと思う!」
棚の奥に掛けられたカーキの襟付きシャツを指さして言ってみた。薄めの涼しそうな素材で、他のTシャツとかの上から羽織るタイプみたいだ。
「それか!買ったはいいけど何と合わせたらいーか分かんなくて着てなかったんだよなー。選んでくれっか?」
そう言われたから中に着る服を探す為に引き出しを開けてみた。所々に不器用ながら丁寧に畳もうとした形跡が見える、お世辞にも上手いとは言えないが頑張ったんだろう。
「これ、いいと思う。色も似合うと思うし…」
白地に黒で英語が書かれたTシャツを取り出してみた。読んでみるとCatastropheと書いてある、買った理由は多分これだろう。Desire様、ちょっとお茶目で可愛いなぁ。
「なるほどな!そーいう風に合わせんのか…ここで着替えていーか?」
「いいよ〜…ッへぁ!?」
あんまりちゃんと考えないで返事して、意味を理解してから驚いてしまった。伊吹は作戦成功みたいな顔でニヤッと笑っている。
「ッははは!顔真っ赤じゃねーか!かわいーなぁ…家連れて来て良かった。」
恥ずかしがってるのがバレたんだろう、顔が真っ赤だと指摘されてしまった。何となく分かってはいたけど、いざ改めて言われるとちょっと恥ずかしい。家連れて来て良かったって、私はそんなに伊吹の役に立ててるのかな。お世辞で言わせてたら申し訳ないなぁ、なんて思っていたら伊吹は何かを思い出したかのようにこう言った。
「そーいや下決めてなかった。これでいー…か?」
伊吹は引き出しに乱雑にねじ込まれていたズボンを取り出した。デニムっぽい素材の綺麗なズボン、あまり履かれてなさそうだ。暗めの色で、トップスとの相性は結構良さそう。
「いいと思う!伊吹絶対似合うよ…!」
「そーかぁ?ははっ、ありがとーな!」
伊吹は優しげな顔でそう言うとサッと着替え始めた。さっきいいよって言ったのは私だしもう裸も見たはずなのに、いざ目の前で服脱いでるってなると緊張する。パンツは履き変えないみたいだけどちょっとドキドキするな。そんな事を考えているとあっという間に伊吹は着替え終わっていた。
「どーだ?似合ってっか?」
外出用の服に着替えたからだろうか、さっきよりキリッとした顔でそう聞いてくる伊吹はとてつもなく可愛くてかっこいい。もはや眩しいの域だ。
「うん!すーっごいかっこいい!!」
「はははっ、よかった。んじゃえーっと、買う物なんだっけ?」
服選びに必死になって、肝心の本題を忘れてしまったようだ。私も何買いに行くんだったか思いだすのに少しだけ時間がかかってしまった。
「えっと…料理酒だね!多分日本酒とかでもいいと思う。…そういえば伊吹はお酒って飲むの?」
「あー!それだ。酒?んー…たまに飲むけどそんな毎日飲むほどは好きじゃねーな。」
伊吹はとてもお酒なんて飲めなさそうな幼い表情でそう言った。ちょっと意外なような気もしたけど、確かにDesire様そんなに酒豪ってイメージは無かったし意外でもないか。
「なんだ?飲んでみてーのか?ッははは!缶チューハイとかちょっとだけなら飲ませてやるぞ?」
違う、って否定する隙も無くそう続けられてしまったが、実際お酒はちょっと飲んでみたい。お母さんはお酒飲まないし、お父さんに飲んでみたいなんて言ったら一体どれだけ怒られるか…。だから興味はずっとあったけど誰にも言ってなかった。そりゃそうか、未成年飲酒なんて違法だもんね。
「ちょっとだけ…飲んでみたい…!」
「そんな体にいーもんじゃねーし、ちょーっとだけだぞ?後で買おーな!」
伊吹はニヤリと笑ってちょっとだけ、ってジェスチャーをしながらそう話した。いけない事をしてるって考えたら背徳感でちょっとドキドキする、こんなの警察とか親に見つかったら抹殺されそうだな。
「さー、行くか!菜白は特に持ってくもんねーか?」
ボーッとしてるうちに伊吹は準備を済ませたようだ。私も簡単に髪を結んで支度を済ませた。
「忘れ物無し!うん、行こう!」
「初めての2人での買い物…ドキドキするな。」
そう言って頬を染める伊吹の手には車の鍵が握られていた。車乗れるの、意外だなぁ。駐車場に着くと、ピッという音と共に黒い軽自動車の指示器が光った。あれが伊吹の車なんだろう、てっきりハイエースとかかと思ってた。
「助手席乗れ、シートベルト忘れんなよ?」
伊吹は運転席に座って、私が忘れっぽいと思ってか教えてくれた。シートベルトは後ろでも閉めてたから忘れる事は無い、たまに忘れたりしたら小さい頃からお父さんに怒鳴り散らされたから。
「わかった!助手席なんて初めて乗るかも…家ではいつもお姉ちゃんが座ってたから。」
「そっか、んじゃぁ思いっきり楽しめよ!」
伊吹はそう言いながら私に優しく笑いかけてくれた。エンジンがかかり、カーナビからETCカードが入っていないと音声が流れる。それに対し伊吹はわかってると返事していた。ほんとにいるんだ、家電に話しかける人。カーナビは家電なのか分かんないけど。
「よーし、出発っ!楽しみだな、菜白!」
アクセルが踏まれ、車はゆっくりと進みだした。