創作 破滅の望(仮)

一次創作「破滅の望(仮称)」のまとめ。※グロ描写、多少の工口描写を含みます。

破滅の望 18話

「ドアが開きます。」
エレベーターから聞こえたお上品なアナウンス、少し低いポーンという音と共にドアが開いた。この階から乗って行くのは、私と伊吹だけみたいだ。久しぶりに見る縦より横に広いエレベーター、小さめの椅子まで置いてある。足元も綺麗な絨毯が敷いてあって、ちょっとビックリしてしまった。
「うおーすげぇ!…乗るぞ〜!」
伊吹は私の手をしっかりと握って、エレベーターの中に入った。私の左手を傷付けないようにか優しく、でも離してたまるかと言わんばかりの強さで握る伊吹の表情は私に、この人といれば大丈夫そうと思わせるには十分なものだった。
エレベーターの横に貼ってあるこのエレベーターから近い店一覧みたいなのを見てみたら、これが一番便利みたいだ。ファミレスもスーパーもこのエレベーターが1番近く、店に着くまでほぼ歩かなくていいぐらい。
「ドアが閉まります。ご注意ください。」
丁寧なアナウンスと共に扉が閉まり始めた。私がよそ見してるうちに伊吹がボタンを押してくれてたみたいだ、6のボタンが光っている。かなりの速さでエレベーターは上り始め、少し酔ってしまった。
「6階です。ドアが開きます。」
あっという間に6回に着いた、途中で乗ってくる人が全く居なかったのは少し予想外だった。少し耳に違和感があるのは、エレベーターがあまりにも密閉されていたからだろう。
「広ぇなー!すっげぇ…!」
目をキラキラさせながらそう言う伊吹は、まるで小学生のようだ。久しぶりに来るこんな広い場所、周りを見渡していると伊吹に優しく声をかけられた。
「迷子とかなるなよなー?迷子センターとか迎えに行ったら身分証要るからな。」
そう聞いて私は息を飲んだ。身分証が要るとなれば、伊吹が私を引き取る事は不可能に近いだろう。それで伊吹に助けて貰ったのがバレたら?警察に連れて行かれたら?…私は、きっと実家に帰されてしまう。そうなればまた地獄の日々に戻る事になる、それだけはどうしても避けたい。
「…わかった、絶対離れない。」
「おいおい、顔色悪ぃぞ?あー、辛ぇこと思い出したんだな。ははッ、そうカンタンには帰さねぇからよ。」
ニィっと笑いながら私の頭をぽんぽんと軽く撫でてくれた。簡単には帰さない、そう聞いたら凄く安心してさっきまでの不安なんて何処かへ飛んでいってしまった。
「えっと…ファミレスどこだろ…」
エレベーターの横にマップが貼ってあるが、私が方向音痴なせいで地図の向きと向いてる方向が違うとどっち向きか分からなくなってしまう。距離はわかるんだけど、どっち向きに進めば…
「おっ!ファミレスはっけーんッ!菜白ー!こっちだぞ!」
嬉しそうな顔をした伊吹は私の手を掴んで、自分の方へグッと引き寄せた。指さしている方向をよく見ると、ファミレスの光る看板がぶら下がっている。伊吹がこういうのを見つけるのが得意なのか、私が苦手過ぎるだけなのかどっちなんだろう。ちょっとだけ気になったけど、そんな疑問は大した問題ではないのかな。そんな事を考えながら、2人でファミレスに向かった。