創作 破滅の望(仮)

一次創作「破滅の望(仮称)」のまとめ。※グロ描写、多少の工口描写を含みます。

破滅の望 17話

「なー菜白、お前行きたい所とかあるか?」
行きたい所って、買い出ししか用事無いからスーパーとか?伊吹は特に何も思い浮かばない私の顔をチラッと見て、いい所を知っているとでも言いたげな表情で私を見ている。
「サンティエ行くか?お前ん家からはちょっと遠いし多分バレねーだろ!」
サンティエは駅前にできた夜始山サンティエの事だろう。駅前だけど私の家からは確かに遠いし、バレなさそうではある。でも警察関係者みたいな人多そうだから怖いなぁ。
「…行きたい!ちょっと怖いけど。」
「俺も行きたかったんだよなー、サンティエ。警備員とかに聞かれても俺にトイレ行きたいっつったら俺も菜白も逃げれっからな!」
ニヤッと少しだけ悪そうな笑顔で伊吹は私に笑いかける。Desire様である事を思い出させられるようなおぞましいものではなく、イタズラを思いついた小学生のような顔だ。トイレ行きたいって言ったら逃げれるって、確かにそうだよね。子供がトイレ行きたいって非常事態だもんね。好きな人と2人っきりでお出かけなんて、まるでデートみたい。伊吹は私の事を恋愛として見てるかは分かんないし、ドキドキしてるの隠さなきゃ…。
「菜白ぉ?なーんだその顔!なんか恥ずかしーのかぁ?」
おちょくるような表情で、ヘラヘラと笑いながらそう言ってきた。恥ずかしいよ…多分バレちゃってるんだから。
「なっ、なんでもないよ!その…楽しみだなって。」
「えー、隠さなくていーんだぞ!菜白がデートみたいとか思ってんのぐらいカンタンに分かんだからなー?」
嬉しそうに笑ってカンタンに分かると言われてしまった。デートみたいって思ってるのが筒抜けなんて、何だか凄い恥ずかしい。そんなことを考えながら車に乗っていると、隣の車線に見覚えのある車が走っていた。お父さんかもしれない。そう思って身構えたが、ナンバーを見たら全然違った。形が似てて色が同じなだけだったみたいだ。
「びっくりした…斜め前の車お父さんのと同じだから。ナンバー違ったけど、見つかっちゃったかと思った。…よく見たら車種も違う。」
「なっ!そりゃビビるな…ナンバー覚えててよかったな、違ったとしても折角遊びに行くってのにビビりっぱなしじゃやだからな。」
なんでナンバー覚えてたんだろう?そんなに車よく見てる訳でも無いのに。遊びに行く…?メインはスーパーのはずだけど、折角サンティエに行くならってことなのかな。
「あー、どうする?外食してくか?ちょっと腹減ってるし家帰ってから作んのもめんどくせーだろ?」
確かにサンティエすっごい広いって聞いたし、歩き回った後すぐにご飯作れる体力は残ってなさそう。色々ご飯屋さんは入ってるみたいだし、バリエーションには困らなさそうだ。
「うん、そうする!伊吹は何食べたい?私は伊吹と食べれるならなんでも嬉しいから。」
「んー…俺も特に決まってねーんだよな。サンティエって何あったっけ、調べてくんねーか?」
そう言って伊吹は私にスマホを渡してきた。もうロックは開いてある状態だったから、パスワードは分からない。調べてみたら、どうやらファミレスは入ってるらしい。わざわざサンティエまで来て…というのはあるけど、伊吹の好みを知るにはうってつけだろう。
「んっと…ファミレス入ってるって、行きたいな〜」
「おー、ファミレスか!俺最近行ってねーな…行くか!」
伊吹はそう言いながらニッコリと笑ってこっちを向いた。嬉しいけど運転中だし前向いてて欲しいかな。赤信号で止まり、伊吹はふと私の手元を見て少し驚いたような顔をしていた。
「なー菜白?お前は俺のスマホで勝手に他ん所見たりしねーんだな。すげーいい子だよなー。」
他の所見る、思い付きもしなかった。確かに運転してるし私の手元なんてしっかりは見てないだろうし、他のページとかアプリとか見に行くぐらい簡単だろう。それから20分ぐらい経っただろうか、窓から見える景色はビルと駅ばかりになってきた。
「そろそろ着くぞー、あれで合ってるよな?」
伊吹は左前に見える看板を指さしながらそう言ってきた。夜始山サンティエ専用駐車場って書いてあるし、あれで合ってると思うけどどこから入るんだろう。
「合ってると思う…けど入口どこだろ。」
「あー、あの警備員のとこじゃねーか?ん、あれっぽいな。」
確かによく見たら警備員さんが立っている、伊吹ほんとに目いいんだなぁ…それとも、人間の気配に敏感なだけ?Desire様だもんね、動体視力が未知数なぐらい別におかしくないか。そんな事を考えている内に、もう駐車場に入っていた。なるべくエレベーターに近いところに停めたいんだろう、同じ範囲をグルグルしている。
「伊吹、他の所にもエレベーターあるんだって。そりゃそっか、サンティエ広いもんね…」
「そだなー、でも多分ファミレス近いのこれだと思うんだよなー。あっあそこ空いた!」
伊吹は嬉しそうに車を停め始めた。1つ隣は車椅子マーク、何も無くても停められる中では1番エレベーターに近いらしい。ほんとにタイミング良かったなぁ、後ろも並んでなかったし好きなだけ待てた。
「行くぞ、菜白。忘れ物しねーよーにな。」
「うん、わかった!…何も持ってきてなかった。」
忘れ物チェックをしてみたけど、まず何も持って来てなかったのを思い出した。鞄も財布もスマホも持たないでお出かけなんて、いつぶりだろう。
「はははッ!それが1番いい!お前一応行方不明者なんだ、鞄でバレたりすんのってよくあるみてーだしな。」
行方不明者、って所から少し小さめの声で伊吹はそう話した。半分忘れてたけど、他の人から見たら私は伊吹に誘拐されてるに過ぎない。何ならもう殺されてるなんて考えてる人も多いだろう。…もうこの世に居ないものって思われてる方が、みんなちゃんと見たり探したりしなさそうだしいいんだけど。
「そっか、私…」
「おぉーっと、それ以上言うなよ?ここ防犯カメラついてんだからなー?」
伊吹は自分の口に立てた人差し指を当て、こう注意して見せた。天井の角をよく見ると、結構目立ちそうな防犯カメラがついている。やっぱり伊吹…Desire様みたいに色々やってる人は、こういうのにすぐ気付くようになるのかな。