創作 破滅の望(仮)

一次創作「破滅の望(仮称)」のまとめ。※グロ描写、多少の工口描写を含みます。

破滅の望 5話

色んなお店が閉まり、来た時より落ち着いた雰囲気になっている。ネオンの眩しさは無くなったが、街灯もそれなりにあるので真っ暗ではない。
「そーいや菜白はさ?なんで俺に会おうと思ったんだ?」
思い出したかのように聞いてきた。色んな理由が積み重なって家出を決心したから、なんでと聞かれても簡単な言葉に表せない。伊吹も何となく察してくれたのか、それ以上追求してこなかった。
「…そのキャリーケース…着替えとか入ってんのか?」
なんで急に思い出したんだろう、と思っていたら錆びたブティックの看板がふと視界に入る。これを見て思い出したのかな。
「他の服、パジャマ、髪留め…だいたい入ってる」
「そっか、じゃー良かった!こんな時間店大体閉まってっからな〜。お前のサイズじゃコンビニにも売ってねぇだろーし。」
私の着替えの確認なんて、この後お風呂にも入れて貰えるのだろうか。流石に申し訳ない…
「伊吹は…何か買って行かなきゃいけないものとかある?」
「俺のは特に無いな…あっ!菜白!歯ブラシ持って来たか!?」
そこで私は歯ブラシ以外にも櫛等の水周りセットを1式忘れてきた事に気がついた。さっき大体入ってるって言っちゃったし、なんて言おう…。
「あー…お前その顔…忘れて来たんだな。おぉー、薬局発見!買いに行くぞ!」
他にも沢山忘れ物をした事に気がついた。…お金もそんなに持って来ていない。足りるだろうか。

閉店間際の音楽が流れる店内、伊吹はおもむろに持ち歩き用歯磨きセットを手に取った。女性向けの先の小さいコンパクトタイプの歯ブラシが入ったセット、ケースの蓋部分をコップとしても使える優れ物だ。
「菜白、ミント系の歯磨き粉って使えるか?」
「使えるよ!」
使える…というか、他の歯磨き粉を使ったことが無い。物心着いた頃にはもう大人用のミントのものだった。レジ前にコーヒー牛乳が2本置いてある。期限が短いからと半額になっていた。それを私が見ているのに気付いたのか、伊吹はそれも一緒にレジに持って行った。
「ありがとうございました〜!お大事に〜!」
「俺このコーヒー牛乳好きなんだよなぁ〜…甘くて!」
伊吹が甘いもの好きなのが少し意外だった。逆に苦手だと思ってたから。
「てっきりブラックコーヒーとかの方が好きだと思ってた…」
「やっぱりそー見えんのか?よく言われんだよな…俺苦ぇのダメだからブラックとかぜってー無理なのに…」
伊吹のことは自分とはかけ離れた存在だと思っていたけど、急に凄い親近感を憶えた。なんだ、結局普通の人間じゃないか。そんな事を考えながら歩いている内に、伊吹の家についた。小さめのエレベーターがついた小綺麗なマンション。オートロック付きだが殺人鬼が中に住んでる状態で意味はあるのだろうか。
「さー、着いたぞ!すげぇ散らかってるけど許せよなー!…やっべ、エアコン付けっぱだった…」
伊吹は荷物を置き、キッチンの水道でササッと手を洗った。一応石鹸は置いてあるが、使っていないようだった。私が手を洗っていると、伊吹が後ろから急に抱きついてきた。
「手ぇ洗う時肩から動いてんの、すげぇ可愛いなぁ」
とても愛おしそうに、私の左肩に頬ずりしている。ふわふわとしたオーラで、すごく幸せそうだ。
「外暑かったから、いっぱい汗かいちゃったね…」
「あー…一緒に風呂入っか!?タオルこれ使え!」
伊吹が私にぽいっとバスタオルとフェイスタオルを投げて来た。水色のバスタオルは伊吹とお揃い、薄いピンク色のフェイスタオルは端に小さくどこかの旅館の名前と電話番号が書いてある。
用意しろって事なのだろうか、洗面所のドアを閉められた。服も脱ぎ、パジャマも用意できた頃
「おーい!入っていいか?」
伊吹の声が聞こえた。いいよ〜 と言いながらドアを開けたその時
「は!?おい!!お前!!!タオル巻かねぇのかよ!?!?」
伊吹は酷く混乱しているようだ。確かに私は今全裸。家族関係じゃ無い成人男性の前で、女子中学生がしていい格好では無いだろう。私はバスタオルを巻くという発想にならなくて、そのまま何も隠さず伊吹と会ってしまった。
「菜白が恥ずかしくねぇなら別に隠さなくてもいいんだけどな…?俺は隠すか…」
「別に隠さなくていいよ?どうせたたないのに。」
ついストレートに言ってしまった。尊厳をかなり傷つけてしまったかもしれない。でも伊吹はDesire様としてインタビューを受けた時に「殺人以外じゃ全く興奮しない」って宣言してたし間違ってはいない…はず。
「そうだけどさぁ…初対面の男の股間なんざ見たかねぇだろ?」
欲を言えば伊吹の出来るだけ沢山のこと、沢山の所を知りたい。でも股間を見たいとは言い辛い…。
「ははっ、なんだよその顔…まさか見てぇのか?はーっ…とんだ破廉恥娘じゃねぇか全く!」
伊吹も鏡に写った私もお互いに満更でもないような顔をしている。
「…おい…それ…傷…どう…した…?」
伊吹が不安気な表情をしている。視線の先は…私の腕、大体浅い物だが無数の自傷痕が残っている。
「あっ…こんなの見せちゃって…ごめ」
急に伊吹がしっかりと抱きしめてきた。
「…ったく。謝んなくていーんだ…この量の傷…ずっと1人で耐えてきたんだろ?これからは1人じゃねぇ、俺がついてるから安心しな…!」
「えへへ…ありがと…いぶき…だーいすきだよ…っ!」
私も負けじと抱き締め返す。お互いの肌が触れ合って、相手の体温がよく分かる。優しく私を安心させてくれる伊吹の体はとても暖かかった。
「はははっ…いーかげん風呂入るか!菜白お前頭洗えるか?」
「ふぇぇっ!?あっ、洗えるに決まってるじゃん!!もう!」
急な不意打ちを食らって、ついキツく返してしまった。
2人とも一通り体を洗い、湯船に入った。2人とも体がそんなに小さい訳では無い。1つの浴槽に1度に2人で入るには少し狭いが、それもまた嬉しい。湯船の中で伊吹に抱きつこうとしたが、拒否されてしまった。伊吹曰く リラックスしてつい寝てしまいそうだからダメ らしい。お風呂上がり、櫛がないことを思い出した。
「ん?菜白…あー、クシ忘れたんだな?目ぇ荒いのでいーなら一応あるけどこれ使うか?買ったけどあんま使ってねぇんだよなぁ…」
貸してもらった櫛で髪をといていたら、伊吹に突然ドライヤーで髪を乾かされ始めた。多分初めてやるからだろう、慣れない手つきで優しく優しく髪を乾かしている。
「伊吹、大丈夫だよ!いつも自分でやってるし…」
「くそー…髪ちゃんと乾かすの…難しいな。もっとやり方調べるか〜!」
伊吹はそう言いながら冷蔵庫の方に向かった。何かお風呂上がりのデザートを探しているのだろうか?一瞬冷蔵庫の中に見えた肉塊と思しき物は見なかった事にする事にした…。