創作 破滅の望(仮)

一次創作「破滅の望(仮称)」のまとめ。※グロ描写、多少の工口描写を含みます。

破滅の望 12話

「あの子は良い子なんです。どうして誘拐なんて…そんな目に合わなきゃいけないのかと。」
お父さんの声だ。私の顔写真と実名も公開されて、捜査が始まったらしい。ちょっと親子で喧嘩になってそれから帰って来ていない?止められなかった?好きにしろって言っておいてそれはおかしいでしょ。
「好きな人に会いに行く と言って家を出たと見られ…」
いつものニュースキャスターの声だ。お父さんには誰に会いに行くかまで言ったのに、好きな人にって言われている。そこをぼかすなんて本当に見つけたいのか?とも思うがその方が都合はいい。もし見つかってしまったら?そう考えただけでしんどくなってくる。
「ん?あー…ニュースか。チャンネル変えるか?」
私が少しだけしんどくなり始めたのに気付いたのか、伊吹はそう言ってきた。でも私は居場所がバレないようにスマホの電源を落としてる分、ニュースから情報を得ておきたい。
「ううん、どれぐらい捜査進んでるか知りたいから付けといてほしいな。」
「そっか、んじゃ付けとくな。まーもし見つかっても俺が護ってやっからさ、安心しな。…大事な菜白をあんなトコにぜってー帰さねーからよ。」
伊吹が…Desire様が私を護ってくれる、それなら何も心配する事は無い。でももし私のせいで伊吹に危害が及びそうになったら、伊吹を守る為になら離れる覚悟は出来てる。私のことをここまで大事にしてくれる人、初めて会ったなぁ。それが元々大好きだったDesire様だなんて、まるで御伽噺みたいだ。
「なー、菜白?お前はぜってーに俺から離れねーでくれっか?何かあっても。」
そりゃ離れるのは嫌だよ、ずーっと一緒に生きて行きたい。でも私のせいで伊吹が怖い事されなくなる方がもっと嫌だ。
「私のせいで伊吹が怖い目に遭わなきゃいけなくなったりしたら離れるよ。あと伊吹が私の事面倒くさくなったり役立たないなーって思ったら、いつでも手放していいからね。警察にも言わない。」
「離れんな。菜白のせいで怖い目に遭う?お前を護れんならそんぐらいなんて事ねーな。俺が菜白を手放すしたりする訳ねーだろ!?折角自分のモノにしたエモノだ…カンタンに失ってたまるか…」
伊吹は私を強引にキツく抱きしめてそう言った。そこまでして私を護る価値とは何なんだろう?もっと簡単な人だって沢山いるだろうに。凛々しい表情で私を抱え込むその姿は、自分の獲物を取られまいと威嚇する獣のようだった。あまりに強く抱きしめられていて少し痛い、でもその痛みは伊吹が自分を大切にしてくれていると分かる幸せなものだ。
「昨晩から行方不明となっている花畑菜白さんのお姉さんは」
伊吹と喋っていない沈黙の間、ニュースの音声が耳に入った。お姉ちゃんが何か言ったらしい。
「…菜白が正しいと思っていた時も味方出来なくてごめんね。絶対見つけ出すから、どこかで生きていてね。と話して…」
生きてるけど私の為を思うなら見つけないで欲しい。菜白が正しいと思ってた?散々貶したりしてた癖に今更そんなふざけた事言わないで欲しい。
「なんとなーく考えてたんだがさっきの好きな人に会いに行くってやつ…秋斗に言ったのか?そんならスグ見つかるハズなんだがなー…あとアイツ多分今んとこ俺の事疑ってねーな。」
ぼやーっとした目で私を見つめている。不思議だなぁとか思ってるのかな。
「お父さんには隼和真に会いに行くって言ったよ。もしかしたらほんとは見つけたくないのかもね。」
こう言うと伊吹は少しだけ驚いてビクッとした後に、納得したような顔をした。お父さんが 子供を気にかける優しい親 を演じているだけの可能性に気付いたんだろうか。
「…菜白、こっち来い。」
伊吹は急に立ち上がりテレビを消すと、私の手を握って寝室に向かった。その死んだ様な目に光は無い。
「伊吹…?急にどうしたの…?」
先にベッドに寝転んで、横から見ていた私を無理矢理布団の中に引き摺り込んだ。質問しても全く喋ろうとしない。
「伊吹?やっぱりまだ眠たい?…」
早起きしたから眠たいのかもと思って聞いてみたが、これも全く返事が無い。何か気になる事があるのかと思って伊吹の感情を失ったような顔を覗き込んでいると、突然強引に私の体を掴み、恐ろしい力で抱き締め始めた。とても私じゃ敵わない、人1人殺めるのには苦労しなさそうな強さの力だが、欲情しているようには見えない。まるで孤独を埋めるみたいに、縋りつくように私を抱え込む。
「痛い…よ…いぶ…き…くる…しい…」
体中が軋むように痛い。息が苦しくなって、だんだん意識が遠くなって行く。最後の力で私も伊吹を抱きしめた。
「…ッは!?今俺…何してた…?」
急に力が弱くなって、伊吹は今まで見た事ない程不安そうに言った。全力で私を抱きしめていた事を告げると、やっちまったとでも言いたげな顔をした。
「ごめん…ほんとにごめん…俺さ…急にすげー誰か抱き締めたくなったりすんだよ。痛かっただろ?…アザんなってるし。ごめんな…」
よく見ると強く掴まれた肩の当たりが痣になっている。少し痛いけど、気にするほどではない。
「謝らなくていいよ!? 1番怖かったのは伊吹自身だと思うし…。」
目に涙をためて何度も謝る伊吹を抱きしめて言った。そういえば伊吹のさっきの表情、凄い寂しそうだったな。
「ん…ありがと、もー大丈夫。これからは正気失ったりしねーよーに気ぃ付けるな。」
にんまりと穏やかな笑顔を浮かべる伊吹、さっきまでの何かが抜け落ちたような顔とは全く違う。さっきは寂しさが押し寄せてきたのかな、そう思って私は伊吹にこうお願いした。
「えへへ、よかった。ねぇ伊吹、ぎゅーってして?」
「…俺の事、ほんとに怖くねーんだな。」
伊吹は小さくそう呟いてから、優しく私を包み込むように抱き締めてくれた。大切そうに頭を撫でながら、おでこに頬ずりしてくる。伊吹だけが私に生きてていいんだって思わせてくれる。とても暖かくていつの間にか私は眠たくなってきていたが、伊吹は全然そんなこと無さそうだ。
「っははは、ぎゅーってされて安心したのか?ねむそーだぞ。全然寝てていいからな。」
「まって、伊吹!」
寝てていいと言って布団から出て行こうとする伊吹を咄嗟に服の裾を掴んで引き止めてしまった。きっと伊吹にとっては迷惑だが、まだ一緒に居たくてついやってしまった。
「さみしーのか?はははッ、んな顔されちゃ置いてけねーな。」
ベッドの端に座って私を撫でてくれる伊吹の手を握ってみる。撫でるのをやめて私の手を握り返してくる、私の片手には収まらない大きくて暖かい手。もっと伊吹と喋ったりしたいが、もう眠気が限界に近づいていた。
「ったく…寝んのはえーな…おやすみ、菜白。」